つくし野歴史文学散歩

黒津 一英

まえがき

 つくし野のよさは、西の彼方に、丹沢山塊と富士を望み、なだらかな起伏の中に点在する神社、仏閣、それを取り巻く森、林、町並みの美しさに尽きよう。
 朝夕の散歩の折、訪れた数々の場所を次に記した。同好の士がお訪ね頂ければ、小生の喜びこれに過ぎるものはない

1.杉山神社
 我が家から杉山神社まで徒歩5分、北参道から入ると、西の彼方に延々と連なる丹沢山塊が望まれ、その手前、町田街道沿いに、25階建のマンションが聳え、その右手に5年前に竣工した5階建のマンション群、更にその右手に成瀬街道に建つ三角形のマンションが続き、眼下には畑、民家などが散在し、まさに一幅の絵と言ってよい。
  32年前に完成した杉山神社の社殿は立派で、設計は申し分なく、見事な青銅の屋根の勾配、回り廊下、階段の姿は、神社建築の粋と言ってよい。

 拝殿の前に2本の杉の木が立っている。根元に立てられた石標をみると、「御大典記念 昭和3年2月吉日」とあり、これから推して樹齢は79年とみられる。
 杉山神社の由緒を見ると境内の面積は、2,060平方メートル、祭神は日本武尊、合祭神は事代主命(三島大明神)、大山咋命(三王大権現)である。

 光格天皇の文化4年(1807年)11月再建、天保11年(1840年)6月、更に地頭大久保勘三、藤原忠寿と家臣下沢喜多録、藤原寿利により再建された。

 文久3年(1863年)更に再建(棟札)、明治36年(1903年)10月26日、拝殿新築、明治38年(1905年)9月、三島大明神、三王大権現が合祀された。

 杉山神社は、都築郡に24社、橘樹郡に37社、久良岐部に5社、南多摩郡に6社と記されている。当神社は、南多摩郡の一社である。

 昭和5年12月、奥の殿、拝殿等新改築され、昭和11年9月、神明造鳥居一基が、氏子によって寄進され、遷宮式が行われた。
 昭和40年より小川第一土地区画整備事業が始まり、43年に完成され、当神社に於いても、新土地に相応しい社殿が氏子総意に基き、境外地の一部を売却し、建築資金に当て、氏子各位の多額の浄財と奉納金を拝受し、新社殿、社務所(神楽殿)、水屋などを総事業費5千万円(昭和49年10月に建立された遷宮記念碑によれば71,586,814円)をもって造営し、昭和49年9月27日遷宮式を執行し、新しい地域の鎮守様として生まれ変わった。
 平成6年8月には、境内の整備、社殿の化粧直し、参道の表札、御由緒屋などを整備し、遷座祭が行われた。

 杉山神社の横手の小山を登ると、頂上に10体の石像があり、2体にはそれぞれ大久保勘三郎.藤原忠寿、下沢喜多録、藤原寿利の名前が刻まれ、「天下泰平 国土安穏 五穀成就 村内安全 天照皇太神宮 天保9年2月」の文字が見られ、一つには「一天四海 南無妙法蓮華経 皆歸妙法 天保9年12月」と書かれ、9体の前に大きく積まれた石像の下には、寄進者 中富村 友井平右兵衛門外26名の名前が書かれてある。
2.つくし野土地区画整理竣工記念碑
 杉山神社の丘の横手に、南つくし野、つくし野の土地区画整理の概要を記した「竣工記念碑」がある。
 それによれば、当地区は、かつては起伏に富んだ山林とその間を縫う田や、畑からなり、中央部を南北に小川が流れ、其處此處に茅葺きの農家が点在する質朴な農村であった。

 たまたま、昭和36年頃より、当地区に開発気運が高まり、地元住民の熱意と努力により、東急田園都市線を長津田より延長し、新駅予定地を中核とした区画整理による画期的な街造りの構想が立案された。
 地元住民は十年にわたり、幾多の困難を克服し、170万平方メートル(515千坪)の大計画を着実に遂行し、44年2月24日、つくし野地区95万平方メートル、47年3月2日、南つくし野地区71万平方メートルに理想的な住宅地を実現した。
3.古い石塔
 杉山神社に隣接した一角に、古い石塔が10体コの字形に立てられている。
 いずれも古びた表面は一部崩れ、立てられて150年から300年近くの歳月が経過していることを物語っている。
 この中で特に大きな石塔は、表面に「地神塔」、その下に、「江戸右」、右横に、「天下泰平 五穀成就」、左横に、「武州多麻郡小川村 嘉永5年(1852年)2月吉日」の文字が見られる。

  表面右端の石像には、「 観音像 寛政8年(1796年) 正月吉日 佐藤八右エ門」と彫られ、その左横の石塔には、地蔵尊2体、更にその横の石塔には、「地神塔 天保14年(1843年)2月吉日 講中19人」と記されている。
 一番左端の石塔には、「念仏講同行25人 正徳5年(1715年)」の文字が見られ、その前の石塔には  「地蔵尊 武州小川村氏子23人」と彫られている。

 また興味深いのは、ある石塔の下に「江戸右」と記され、江戸への道標の役目を果たしていたことがうかがわれる。


次回へ続く

(平成19年5月21日)